トルコ アイダー・カチュカー山脈 2001.08.09 - 2001.08.12

高原と山岳少数民族

カチュカー山(3937メートル)を最高峰とするカチュカー山脈は、トルコ北東部の黒海近くにある。トルコにこういう所があるのかと驚くような、アルプスを少し思い出させる美しい山岳地帯である。8月には高山植物が咲き乱れて、緑の草原と岩山との対照がとてものどかな印象を与える。

カチュカー山脈は現在のアルメニア辺りから昔移住してきたとされる、山岳少数民族ヘムシン族の里でもある。最近カチュカー山脈から外国や都市に移住したヘムシン族の人々は、夏になると山奥にある故郷の村に戻ってくる。8月にはヘムシン族独特の見事なヘッドドレスを身に付けているヘムシン族の女性でこの地域はあふれている。

さて登山が目的でやって来たカチュカー山脈だが、登山情報のとぼしさにまず参った。まずこの地域の地図が手に入らない。唯一の地図は軍用の地図だが、最高峰のカチュカー山まで登ろうとするには随分頼りない代物だ。別の手段としては、登山のベースとなる町アイダーでガイドを雇う方法もある。しかしガイド料だけでグループあたり一日につき、100アメリカドルかかり、その上にテントや寝袋等のレンタル代、また食料費も考慮に入れなくてはいけない。カチュカー山登頂に3日から4日かかるので、かなりの金額となる。私達はアイダーをベースとして、日帰り登山に数日間出かけることにした。

ヘムシン族の人々が里帰りをする夏の間は、乗合のミニバスがアイダー経由でヘムシンの村々に向けて出ており、1日目はユカリ・アウソー行き、2日目はユカリ・カブロン行きのミニバスに乗って、終点から最後のミニバスが出る時間まで歩いた。

1日目は宿泊先のペンションのオーナーが教えてくれた、ユカリ・カブロン行きのミニバスを待っていたのだが、9時出発のはずのバスが全然来ない(この日ペンションにやって来た人によると、道端でオレンジ色のミニバスが一台故障して立ち往生していたというので、それかもしれない。)周りの人々によると、次のバスはお昼まで来ないという。困ったなと思っていると、バスは行かないとペンションのオーナーに言われたユカリ・アウソー村行きのミニバスがやってきた。バス停のおじさんによると、毎朝9時40分にアイダーからユカリ・アウソー村行きのバスが出るそうだ。

里帰りのヘムシン族の人々とトルコ人観光客と私達を乗せたミニバスは、よく車が通るなと関心するぼろぼろの未舗装の道15キロを1時間半かけて登り出した。この同じバスが山を下るのは午後4時なので、それまでの5時間の間、特に目的地はなく、いくつかあるはずの湖のひとつにたどり着ければいいかなと思いながら歩きだした。何の標識もない村人が使う登山道とロバの糞を頼りに歩いていくと、いつの間にかキルミジ峠(多分)にたどり着いた。峠までは雲が降りてきて見晴らしも悪く気温も低かったのだが、峠ではうそのように青空で暖かかった。峠からははるか遠くまで登山道が続き、その先には山の谷間に小さな村がひっそりとたたずんでいるのが見えた。

2日目は昨日やって来なかったユカリ・カブロン行きのオレンジ色のミニバスが8時半にやってきて、予定道り9時にアイダーの町を出発した。14人乗りのぼろぼろのミニバスに、25人がぎゅうぎゅう詰めにされて、昨日と同じようにぼろぼろの道15キロを2時間かけてよろよろと登りだした。このバスも午後4時に山を下るので、出発まで4時間歩いた。この日は宿のオーナーで山のガイドでもあるメーメットに地図を書いてもらった、カチュカー山のふもとにあるオキュズ・ユタイ湖まで行くことにした。ユカリ・カブロン村からオキュズ・ユタイ湖までは村人たちが峠を越えて村の間をひんぱんに通るような通商路ではないので、道が少し分かりづらい。なので道をよく知っている人に手書きの地図を書いてもらうと良い。湖自体は小さくてにごっており、きれいとは言えないが、カチュカー山の眺めは良い。アイダーの町で買っておいた焼きたてほかほかのパンを、湖のほとりで食べていると、カチュカー山の頂上にたどり着いて喜んでいる人の叫び声が聞こえてきた。

カチュカー山脈の景色は期待が大きすぎたのか、思ったより感動が少なかった。多分トルコに来る直前に、モンブラン周辺で8日間毎日ハイキングをしていたので、比較の対照が悪かったのであろう。しかしアメリカ東海岸から来たカップルは、今まで行ったどの山よりすばらしかったと、興奮気味に話していたので(アメリカ東海岸には高い山がない)、人によって受ける印象はまったく違うようだ。私達にとってカチュカーでの一番すばらしい思い出は、短いカチュカーの夏の間に山奥の村々に帰って自分達のルーツを確かめ合うヘムシン族の人々に出会えたことだ。言葉が通じなくてもお互いの片言の英語とトルコ語で疲れ果てるまでおしゃべりをしたり、質素な生活のさまを垣間見たりした事は忘れられない思い出となった。


カチュカー山脈

ユカリ・アウソー(Yukari Avusor)は、夏に故郷に戻ってくるヘムシン族の村のひとつで、夏の間は黒海沿岸のパザーの町からチャムル・ヘムシンとアイダー経由のミニバスが出ている。アイダーからこの村まで、ミニバスは穴だらけの未舗装の道15キロを1時間半かけて登る。

ハイキング初日に、ユカリ・アウソー村から湖へ歩くつもりでいたが、気が付いたらキルミジ峠にたどり着いた。

ユカリ・アウソー村の子供達。みんなきれいな洋服を着ている。

ヘムシン族の女性はとてもきれいで独特なヘッドドレスをつけている。赤ちゃんを抱いているお母さんは行きのミニバスで一緒になり話し掛けてくれた。隣の女性とお母さんは、赤ちゃんをカメラに向けるのに気をとられていて、彼女達がこちらを向いていないのが残念。

第2日目のハイキングの出発地ユカリ・カブロン(Yukari Kavron)村行きの14人乗りミニバスには、25人がぎゅうぎゅう詰めに乗り込んだ。私達は席がなくて運転手と助手席の間に二人で詰め込まれた。

第2日目のハイキングの目的地のオキュズ・ユタイ湖は、カチュカー山(3937メートル)のふもとにたたずんでいる。ここでお昼を食べていたら、カチュカー山の頂上にたどり着いた人の喜びの叫び声が聞こえてきた。

戻る2001年旅行記目次中東の地図ホーム

  Copyright © 2000-2002   Wes and Masami Heiser.   All rights reserved.