夏が恋しい

ヨーロッパに来てから、あまり夏らしい気候を体験していない。特にスイスでは、標高が高いせいと、天気があまり良くないせいで、北カリフォルニアの冬を思い出す、寒くてじめじめとした毎日だった。山登りをする為に、天気が良くなるのを待っていたが、あまりにも寒い気候に嫌気がさし、スイスの中でも、比較的温暖な、ティシーノ地方に来ることにした。

スイスの南に位置するティシーノ地方はイタリア語圏で、滞在したルガーノはティシーノ地方の最大の都市である。湖のほとりに広がる街に降り立ったとたんに、周りの空気が突然じりっとした、真夏のにおいに変わった。数時間前まで、寒い寒いと言っていたのが嘘のようだ。

しかし、ルガーノは同じような思いの人々が多く訪れるようで、週の真ん中なのに、１泊したバックパッカーの宿はもちろんのこと、他の安めの宿は全て満室で延泊することが出来なかった。

宿で出会ったカリフォルニア出身のサーファー青年は、もう旅に出てから２年経つという。あとどれくらい旅を続けるか分からないと話をしていた。最初はおもしろく話を聞いていたのだが、しばらくするとなんだか心にひっかかるものがある。彼の目からは、旅行をする人たちに特有の、好奇心に満ちたかがやきが消えていたのだ。何をやっても、何をみても、もう輝くことのなくなった瞳を見入っていると、この人はどうして旅を続けているのだろうかと、不思議な気持ちになった。