中国 |
重慶・湖北省長江 |
2002.06.05 - 06.07 |
三峡下り
長江の三峡下りは、2009年に三峡ダムが出来ると渓谷のほとんどがダムで作られた人造湖の下に沈んでしまうので、ダムが完成する前にその姿を拝んでおこうとする、観光客で常に賑わっている。近い将来に見る事が出来なくなってしまうというのが大きな理由で、私達も三峡下りを計画していた。
しかし、ベトナムから中国を旅行する数ヶ月の間に、三峡下りを実際にやった人に会って話を聞くと、三峡下りを楽しんだ人には一人も会う事が出来なかった。峡谷の景色は思ったほど素晴らしくなかった。観光客でいっぱいの船に数日間過ごすのは苦痛だ。船から降りて観光する時は、景色を楽しむよりも、観光客の洪水の中で自分のツアーガイドを見失わないようするのに必死で、あまり印象が残ってない。そして、何人かの人は、まったく景色を見られなかったとも言っていた。次々に集まった、批判的な意見を聞き、私達も三峡下りはやめようと一時は決心したのだ。
そんな時、成都のホテルで同室になった年配のニュージーランド人の女性から、いかに三峡下りを楽しんだかをいう話を聞いた。彼女は友人と川を船で上った後、別の友人と待ち合わせをして、同じ川を下ったのだった。彼女のあまりの熱意に押されて、そこまで勧めるなら三峡下りをしてみようと思い直した。彼女のお勧め通り、三峡を見るのに最低限の距離のみ船に乗ることにした。
大足から早朝のバスに乗り、重慶にはお昼前に到着した。重慶からは長江沿いに400キロ下流にある万県という町へのバスに乗り換えた。重慶はバスからしか見ていないが、公害がひどく町並みも憂鬱な感じで、この町に泊まらないで済んで本当に良かったと感じてしまった。
多くの人は重慶から三峡下りの船に乗る。重慶発の観光船は夜7時頃出発して、約26時間後に万県へ到着する。重慶からバスに乗ると、約9時間で下流の町万県へ行けるが、このバスはあまり快適ではない。バス自体の問題よりも、他の乗客があまりにも煙草を吸いすぎ、あたりかまわず不快な音を立てて痰をバスの中で吐き出す汚さに参ってしまった。汗と埃まみれになり万県へたどり着いた時には、船に乗る前からへとへとに疲れてしまった。
万県のきれいなレストランで夕飯を食べ、顔を洗い、隣のテーブルにいた少し英語を話せる人から、船の情報を得て、夜8時頃出発する船に乗るために、タクシーで港まで向かった。港に行けば、船の客引きがたくさんいるだろうと期待していたのだが、客引きの姿は一人もおらず、券をどこで買えばいいのかも分からない。しかし、船を待っているらしい人々が大勢待っていたので、とにかく今晩船が来る事は確実なようだ。しばらくあちこちで聞きまわり、下流へ向かう船は8時頃来る事と、チケットはもうしばらく買えないことを確認した。約1時間程待っていると、ようやく上流から船が到着した。券売り場が開くと同時に、券を持っていない人達が一斉に押し寄せて、戦場と化した。ウェスが私のためにスペースを確保している間に、私が券を購入した。二人で旅行すると良い事の一つは、こういう状況の時チームワークで目的を達成出来る事だ。
船に乗ってみるとガイドブックに書いてあるのとは、まったく様子が違った。まず他に観光客らしい人は一人もいない。食堂もなく、船内アナウンスもない。しかし、三峡の第一の峡谷は、明日の朝着く武山の手前から始まるので、夜の間は寝ていてもまったく関係がないので、問題はなかった。船は朝の6時に武山に到着する予定なのに、結局は5時間半遅れで11時半に到着した。
武山は小三峡の川下りの出発点だ。船から下りると、小三峡の川下りの客引きが何人かいた。しかし、小三峡の川下りは毎朝6時にしか出発しないことが分かった。小三峡の川下りの為だけに、みるからに陰鬱な町に一泊する気がまったくなかったので、小三峡の川下りは辞めて、数時間後に出発する船で宜昌まで向かう事にした。船が出るまでの数時間、武山の町で食料を買ったり、お風呂屋さんでシャワーを浴びたりした。この短い時間の間に分かった事は、この町は第一印象の通り、陰鬱な町という事と、外国人と見るととんでもなくぼる事である。普通なら3元位のシャワーには、一人20元と言われるし、高くても1元しかかからない距離に乗合タクシーは5元と言い、道端で商売している屋台のおばあちゃんまで、普通の何倍もの金額をふっかけてきた。三峡下りの観光船が夜停泊する町でもあり、金持ちの観光客が多く来ているせいか、観光客は良い金づるなのだろう。今まで旅してきた、地元の人々とは良い思い出がたくさんある地域とは、まったく対照的だ。
今度の船は観光船で、中国人観光客で賑わい、観光名所を通り過ぎる時には、船内アナウンスが流れ、乗客全員が狭い甲板にぎゅうぎゅう詰になり、通り過ぎる景色を眺めた。3等客室は8つのベッドが並んでいるが、一部屋に4つのベッドしかなかった、最初の船よりは多少豪華な感じがした。ケーブルテレビではワールドカップを見る事も出来るし、レストランもある。しかし、この船はあくまでも庶民向けの観光船なので、全体的にはぼろぼろで、時々通り過ぎる豪華客船とは雲泥の差である。
三峡の景色は、確かに期待して来るとがっかりするというのが理解できる。所々大きな崖に囲まれてスケールの大きさを感じる所もあるが、これだけの為に何日間も汚い船に缶詰になる価値があるとは思えなかった。皮肉な事に私にとって一番のハイライトは、三峡ダムの工事現場だった。ダムの大きさは想像以上で、こんなに壮大な計画を考える中国人のスケールの大きさに驚かされた。
大足を出発してから、約38時間移動し続け、午後10時半に宜昌に到着した。宜昌から次の目的地である、貴州省方面の電車は午前3時頃に出発する。宜昌に一泊して翌日の電車に乗るか、あと数時間駅で待つか迷ったが、宜昌もあまり泊まりたいような町ではなかったので、がんばってその日の内に移動してしまう事にした。問題は午前2時まで券売り場が閉まっている事だ。寝台券が取れるかどうかが、午前2時まで分からないのだ。駅の待合室で午前2時まで仮眠しながら待ち、券を買いに行くと、寝台券どころか、席番号のないハードシートの券しか買えないことが分かった。宜昌は、幹線からはずれた所にあるので、体が持つ所までがんばり、幹線に出た後でもうだめだと思う所で降り、次のハードスリーパーの券を買ってみようという事で電車に乗った。駅の待合室は真夜中なのに、午前3時発の電車に乗る人でいっぱいであった。私達だけでなく、団体ツアー客の多くが、ハードシート席しか取れなかったようで、改札口が開くと、席を取るために大競争が始まった。私達は奇跡的に2つ席を見つける事が出来たが、席がない人も大勢いた。エアコンもなく、文字通りカチカチに硬いハードシートに、どうやって10時間も我慢できたのか分からないが、大足を出発してから54時間後に、地獄の列車の終着駅に到着した。ここから貴州省の凱里までは、電車を乗り換えて5時間だ。しかし、私達の体力はここまでが限界だった。駅を出てすぐのきれいなホテルにチェックインした。
正直言って、三峡下りは楽しい経験とは言えない。私達も他の旅行者と同じように、どうしても行きたいなら止めないが、三峡下りを勧める事も出来ない。数日間同じメンバーと一緒に同室になるので、船の上での快適度は同室の人によってかなり左右される。私達は運良く良い人々と出会ったが、他の部屋を見ると、ヘビースモーカーばかりで部屋がいつも白く曇っている所もあれば、何時間もギャンブルに励んでいる部屋もあった。私達は2度と三峡下りをやろうとは思わないが、今回の旅をやり直すとしたら、万県までバスに乗るのではなく、重慶から船に乗るであろう。これにより、12時間余分に時間がかかり、お金も50元程余計にかかるが、万県までの憂鬱なバスに乗らなくて済むし、また小三峡めぐりをする時間も出来る。私達は今回の失敗で学んだ事は、人の勧めに軽く乗るのではなく、自分の直感を信じた方が良いという事だった。
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三峡の渓谷の一つを通り過ぎる観光船。 |
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三峡ダム工事現場は、三峡の景色よりも面白かったかもしれない。余りのスケールの大きさに驚かされた。 |
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